スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | 【--------(--) --:--:--】 | Trackback(-) | Comments(-)
未来福音 小ネタ。
未来福音で、ちょっとした小ネタ。
あまり内容はないんですけど、ちょっと練習がてら。


例によってもの凄くネタバレ中です。厳重注意。








……ということで、ネタバレ大丈夫ですね?






以下、ミツル君の練習がてらの小ネタ。あまり深い意味はないです。

―――

 相も変わらず容赦なく照りつける日差し。
 残暑、という期間はいつまでを指すのやら、とウンザリしながらも私はわざわざ屋上に来て煙草を吹かしていた。

 絶景というわけではないが、そう悪くもない景色を眼下に、絵本の構想を頭の中で巡らせる。なにしろ最近は副業(と私は信じている)の方が忙しく、執筆作業もままならなかったのだ。
 例の占い師の一件も、ようやく片が付いたことだし、そろそろ本業の方にも力を入れないと、ほぼ唯一の愛読者にも愛想を尽かされてしまう。

 そんな思いに私が思考を巡らせていると、不意に背後でドアが開く音がした。
 そしてドアから現れる人の気配に、私はまたマナが習い事を抜け出してきたのか、とため息混じりに振り向いて。

「マナ。いい加減に、塾を抜け出してくるのは―――」
「―――驚いた。本当に人が住んでいるのか、ここは」
「……え?」
 そして見知らぬ人物の姿を目にして、思わず硬直した。

 年齢は正直よく掴めない。
 私と同年代にも見えるし、かなり年上のようにも見える。
 髪の毛を後ろで縛り、Yシャツにタイトなズボン姿。一瞬、弁護士、という印象が頭をよぎったが、私を珍しげに眺めるその目つきの悪さに、その印象は霧散する。悪徳弁護士、というのならまだその雰囲気に似合うかも知れない。

「誰だ?」
「マナ、という人物ではないよ。残念ながらね」
 私の誰何に、女性は面白くもなさそうに呟きながら、こちらに向かって歩を進める。
 手には大きめのトランクケース。あるいは旅行中なのだろうか。あまり重要でもないことが頭を掠めるのを自覚しながら、私は問いを繰り返した。

「それは見れば分かる。一応、このビルは私が借りているのでね。関係者以外の無断進入はご遠慮いただきたいんだが」
「ああ、それは失礼。君が「今の」所有者か。こんな廃ビルに居を構えるとは、物好きだね」
 放っておいてくれ。
 失礼、と言いつつも更に失礼な言動を繰り出す彼女に、しかし、私は怒りよりも警戒を抱く。
 あまりに堂々とした、というより、ふてぶてしいその態度に、「組の関係者」ではないかとの疑念が脳裏に浮かんだからだ。

「……ひょっとして、あんたは組の関係者か?」
「組? いや、違うよ。わたしは、その手の人間じゃない」
「なら完全に不法侵入か。何者だ、あんたは」
「ん? 私か?」
 問い掛ける私に、彼女は少し考えるように目を細め、そして、言った。

「まあ、有り体に言えば魔法使いだ」
「お引き取り願おうか」
 変人だ。そう判断して私は即座に、ドアの方を指し示す。
 あまり他人のことをどうこう言える立場でも無いが、これ以上の面倒な人種と関わり合うのはごめん被る。面倒ごとのタネはマナとそのお母様の二人で十分すぎるほどに足りているのだから。
 心から「帰れ」と告げた私に、しかし、女性は「ふむ」と呟き、しばしの沈黙を挟んで「わかった」と頷いた。

「引き上げよう。邪魔をしたね」
「……なに?」
 あまりにあっけなく引き下がった彼女に、拍子抜けして私は思わず間の抜けた声を漏らす。
 正直を言うと、彼女からは組長と同種の臭いを感じていたから、「引き下がる」なんていうことは想像していなかったのだが。

 そんなあっけにとられる私を見て、彼女は口元を愉しげにゆがめた。

「何、今日来たのはただの気まぐれだからね。ほんの少しだけ、昔を懐かしむ気分になったんだ。
 だが先客がいるのなら、そういう訳にもいかないだろう? 機会があれば、また出直すよ」
「……あんた、昔、ここに住んでいたのか?」
「昔ね」
「ひょっとして、ここを改修したのも、あんたか」
「さて、どうだったかな。こう見えて、肩書きは建築家でね。直したり壊したりは年中だ。細かいことは覚えていないよ」
 明らかに嘘だ。揶揄するような彼女の視線に、そう確信したが、不思議とソレを問い詰める気分にはならなかった。
 
「邪魔をした、というのは、俺の方かな。遅いかも知れないが」
「いいや。ここにあるのは君の現在(いま)だろう。誰かの昔(なごり)に気兼ねすることはないよ」
 そこまでいうと、彼女はふと目を細めて、俺の顔をまじまじとのぞき込んだ。
 
「……何か?」
「いや、どことなく昔の知り合いと似ていると思ってね。ふむ」
 戸惑いながら尋ねる俺に、彼女は真顔で頷くと、不意に再び口元を緩めて笑った。

「なるほど。君も女に振り回される性質のお人好しか」
「……放っておいてくれ」
 違う、と言いたくても言い返せない自分が、心底恨めしかった。
 脳裏に「ミツルさん、お願いがあるのだけど」と満面の笑顔を浮かべるお嬢様がちらついて、我ながら情けなくなる。
 そんな俺の心情を、あっさりと読み取ったのか、彼女は俺の肩を軽く叩くと、愉しげに笑った。

「自覚があるなら救いはあるか。なら、一つ忠告だ。
 せいぜい我が儘お嬢様には気をつけることだね。
 振り回されている内に、気付けば根こそぎ持って行かれかねないぞ?」
「持って行かれるって、何を」
 不吉な響きの言葉に俺が問い返すと、彼女は何を思ったのか、やおら眼鏡を取り出した。
 そしてそれをおもむろに装着すると、先ほどまでと一転、別人のような柔らかな笑みで、

「そんなの決まっているじゃない? ―――勿論、「全部」よ」、と。
 ある意味で、卒倒したくなるほどに不吉すぎるそんな「未来」を口にしていた


 /

「―――ミツルさん?」
「マナ」
 突然の来訪者が立ち去ったのと入れ替わるように、屋上に姿を現わしたのはマナだった。
 高級そうなブラウス姿で、鞄を片手に提げている所を見ると、例に漏れず塾を抜け出してきたのだろう。

 が、今の俺はそれを指摘するよりも、「彼女」の事を問い掛けていた。

「マナ。今の人は君の知り合いか?」
「……? 何のこと?」
「だから今の女性だよ。ほら、眼鏡の女性だ。君と入れ違いで出て行っただろう」
 そう尋ねる俺に、マナはその端正な顔一杯に疑問符を浮かべて、首をかしげた。

「ミツルさんって、眼鏡の女の人が好みなの?」
「……何の話だ?」
「だって、お昼間からそんな妄想に耽るなんて、余程のことだものね。
 私もかけたようかしら、眼鏡。パパともおそろいだし」
「止めなさい。伊達眼鏡なんて、十年早い。って、いや、そうじゃない!」
 慌ててマナの誤解を否定しながら、私は口早に直前の出来事を彼女に話した。
 が、それを聞いたマナの答えは「そんな人は見ていない」というものだった。

 つまり、私が出会った人物は、マナとすれ違うことなく消えた、という事になる。

「……なんだ、それは」
 白昼夢、という奴か。と半ば呆然と呟く私に、マナはやけに嬉しそうに微笑みかけた。

「ミツルさんにしては、素敵な空想じゃない。
 素っ気ない内容なのが「らしい」けれど、余韻があって私は好きよ?」
「……そりゃ、どうも」
 慰めなのか、冗談なのか。気ままなお嬢様のお言葉を、聞き流しながら私は屋上からの光景に再び目を向けた。
 今は周りからいくつものビルに見下ろされ、俯瞰という程に高さを感じはしないが―――。

 ―――かつては、俯瞰と言うほどの高みにあったのかもしれない。
ふと、そんな想いが胸によぎった。

「ミツルさん?」
「まあ、夢なら夢でよしとするか。作家としてのイマジネーションが高まってきたと言うことかも知れない」
「あら、それは楽しみ」
 冗談めかした俺の言葉に、ほぼ唯一の愛読者は愉しげに笑い、そして言った。

「じゃあ、次の絵本は魔法使いのお話なのかしら」、と。
 本当に、この娘はどこまで見通しているのやら。

『振り回されている内に、気付けば根こそぎ持って行かれかねないぞ?』

 魔法使いが遺してくれたそんな警句を思い出しながら、俺は大きく空を振り仰いだのだった。


 それはほんの一時。
 夏の名残に覗いてしまった、ささいな過去の一欠片のお話。
スポンサーサイト
SS | 【2008-08-27(Wed) 00:43:19】 | Trackback:(0) | Comments:(3)
コメント

序でマナがミツルを呼ぶ時は「ミツルさん」だったかと思うのですが、SSで君付けなのには理由があるのでしょうか?
2008-08-27 水 12:02:05 | URL | 弐 #lF1N9AjY [ 編集]

>弐さん
ご指摘ありがとうございます。
おっしゃるとおり「さん」が正解です。勘違いしてました(汗。
うう、呼称を間違うとはお恥ずかしい限りです。反省。
2008-08-27 水 20:51:01 | URL | 須啓 #- [ 編集]

もうミツルさんをモノにしているとは・・・
流石ですね(^^)

ただ、橙子さんが元・伽藍の堂を
訪れるのは無理がありそうですね。

まぁ、だからこそ「白昼夢」という
締めにしたのでしょうけど。

それにしても、ミツルさんが
元・伽藍の堂に辿り着いた経緯が
気になりますね。

「序」というのは「続く」と言う事なのか、
それとも「続いて行くだろう」という暗示なのか。


そう言えば、「倉密」が死んだのは
14歳の時、爆弾魔を5年間やっていたのだから
爆弾魔が誕生したのは・・・

未来を「限定」すると言う事は、
こういう事なのか・・・深い話ですね。
2008-09-28 日 19:22:15 | URL | 毅 #kinI0lqo [ 編集]
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。